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札幌高等裁判所 昭和26年(う)393号 判決

控訴人 被告人 横沢哲男

弁護人 斎藤敏之

検察官 木暮洋吉関与

主文

本件控訴を棄却する

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする

理由

弁護人及び被告人の各控訴趣意は別紙のとおりである

弁護人の控訴趣意第一点について

記録によれば本件が刑事訴訟法第二百八十九条第一項により弁護人がなければ開廷することができないこと及び本件公訴が当初小樽簡易裁判所に提起せられ同裁判所は刑事訴訟法第三十六条本文によつて弁護士岩谷静衛を弁護人に選任したが其の後刑事訴訟法第三百三十二条により本件を札幌地方裁判所小樽支部に移送したこと並びに同支部においては本件につき新に弁護人を選任することなく右弁護士岩谷静衛が公判廷に出席弁護人としてその訴訟行為をなしたことはいずれも所論のとおりである弁護人は当初事件の繋属した裁判所において弁護人を附しても前記の如き移送決定があつた場合には該決定の確定により弁護人たる地位は消滅する旨主張するのであるが移送を受けた裁判所においては事件の事実審理手続をこそ新にこれをなすを要するも事実審理に属さないと認むべき移送裁判所のなした起訴状謄本の送達、国選弁護人の選任の如きものについては移送決定確定後においても其の効力に何等の消長を及ぼさないものと解すべきであるしかも刑事訴訟法第三十二条第二項によれば弁護人の選任は審級ごとになすべき旨を規定しているのみであつて本件は単に一審裁判所間に於ける事件の移送に過ぎないのであるから移送を受けた裁判所において更に弁護人の選任をなすの必要はない尤も移送を受けた裁判所において一応移送裁判所の選任した弁護人を解任し更に弁護人を選任するのが通例行われている妥当な措置であると謂い得るのであるがかゝる措置を採らなかつたからといつて直ちに原審の訴訟手続に違法の廉があつたとは謂われない論旨は理由がない

被告人の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第二点について

原判示事実は背広三つ揃洋服三着外衣類等三十六点を窃取したと認定しているのであつて右は原判決挙示の証拠によりこれを認むるに足り又本件記録並びに原審の取調べた証拠に現われた被告人には窃盗及び強盗の前科がありしかも仮釈放期間中に本件犯罪を敢行した事実其の他諸般の事情を綜合すれば所論を考慮に容れても原審が被告人に対し懲役三年の刑を科したのは量刑必ずしも不当とは思われない論旨はいずれも理由がない

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし同法第百八十一条第一項に則り当審における訴訟費用は全部被告人の負担とし主文のとおり判決する(昭和二六年七月五日札幌高等裁判所第四部)

(裁判長判事 黒田俊一 判事 鈴木進 判事 東徹)

弁護人斎藤敏之の控訴趣意

第一点原審の訴訟手続には法令の違反がある。原審公判調書によれば弁護士岩谷静衛が公判廷に出席し弁護人としての訴訟行為をなしたことが明かである。しかし本件記録のどこにも被告人が同弁護士を弁護人に選任するという書面もなければ、原裁判所である札幌地方裁判所小樽支部又は支部の裁判長が本件について弁護人を附する決定や命令をした形跡も存在しない。従つて右岩谷静衛は弁護人として出廷する資格のないものであつて、原審の公判手続は適法に選任せられた弁護人なくしてなされたものといわなければならない。もつとも記録によれば本件公訴は当初小樽簡易裁判所に提起せられその後刑事訴訟法第三百三十二条により札幌地方裁判所小樽支部に移送せられたものであつて、その小樽簡易裁判所に繋属中同裁判所は刑事訴訟法第三十六条本文によつて弁護人を附することとし、弁護士岩谷静衛を弁護人に選任したことが認められるけれども、右法条により弁護人を附することのできるのはその事件の繋属する裁判所に限るのであつて、当初事件の繋属した裁判所において弁護人を附してもその事件が移送決定の確定によりその裁判所に繋属しなくなつたときは弁護人たる地位もまた消滅するものと解するのを相当とする。従つて前記岩谷静衛は本件が札幌地方裁判所小樽支部に繋属した後は新たな選任がない限り本件の弁護人ではないわけである。しかして本件は刑事訴訟法第二百八十九条第一項により弁護人がなければ開廷することができない事件であるから適法に選任せられた弁護人なくしてなされた原審公判手続は違法たるを免かれず且つこの違法は判決に影響を及ぼすこと明かなものと思料する。

(その他の控訴趣旨は省略する。)

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